取材当日は、CMテープの収録がありました。原稿内容によってはナレーターは男性になったり女性になったりします。さまざまなリクエストに応じられるように、プロのナレーターを数名そろえています。声のサンプルテープもあるので、事前にチェックできます。
原稿の読み方やイントネーションの確認を行って本番に臨みます。400字詰め原稿用紙2枚ほどの長さを目安に、約3分間読み上げます。録音の際には、立ち合うことができ、この日も依頼者がスタジオで見守っていました。
ガラス窓の向こうの部屋で、ナレーターがマイクに向かって話しだすと、ミキサールームでは、坂本さんがレバーを操作します。ここで録音した音は、坂本さんの編集作業が加わって、1本のマスターテープになります。
ナレーターの声だけのテープもあれば、BGMをつけるものもあります。お客様の満足のいくようなテープを作り上げていくのは、編集の技術です。
商業用の店頭テープから、記念日に流すテープ、あるいは定刻時間を知らせるようなテープ作りまで、その内容は多種多様です。
「時間がかかった」と作業を終えた坂本さんは言っていましたが、それでもわずか数時間でテープまで完成させてしまいます。
このスタジオでの収録のほかに、別の部屋では、語学学習用の教材テープのリプリント(ダビング)作業とカセットへの巻き作業が行われていました。
作業をしていたのは、口数の少ない青年でしたが、質問すると丁寧に答えてくれました。人の心をまあるくするようなものをもっている不思議な存在感のある人です。こちらの要求をさっと汲み取って対応してくれる頭の回転の速さにも感心します。
この青年は、リプリント後の音のチェックもしているのですが、矢吹社長の話では、「耳がいい」とのこと。雑音や微妙な出力バランスを聞き逃さない感覚を備えているのでしょう。
世界を代表する技術を持っているプレス職人も、自分の感覚でナノ単位の定規をひきだすといわれていますが、人間の五感というのは、すばらしい道具だと改めて感じます。
さて、リプリント用マスターテープは、大きな縦型の機器にセットされました。
アナログのテープは音の録音されていない部分をヘッドで感知して、1本の長さを調整できるようになっています。マスターテープをセットした機器の横で耳を澄ますと、途中でふっと音が途切れる箇所があります。そこが、テープの切れ目になります。
説明を受けながら、「ヘッド」という言葉で、中学生の自分が浮かんできました。綿棒にクリーナー液をつけては、カセットテープレコーダーの「ヘッド」を掃除していたことを思い出しました。そういえば、あのクリーナー液はどこにしまったのだろうか、などと回想にふけっている間に、リプリントされたテープは出来上がってきます。
大量のテープをこなすときは、システムが3ラインあるので、文字通りそれをフルに回転させます。(高速デュプリケーティングシステム
)
次に、マスターテープからリプリントされたテープの、音の状態のチェックです。左右の音量・音質はどうか、などを機械のレベルを目で確認し、人間の耳で聞いて確認していきます。
音のチェックを終えると、規定のダンボールの箱にテープを収めます。その時に、どういう内容のテープで、どういう状態で録音したのかをテクニカルシートという表に記入して、最終作業者へ渡します。
最終作業は、市販される1本のテープにしていくことです。これもヘッドが音を捉えて、無音となっている合間の場所を感知して、自動的にテープを切断していきます。
すべてのテープの出だしは何秒間か音のない間がありますが、昔は手動で透明のテープをつけるスプライシングという作業を行っていました。
現在では、すべて自動化されていますが、ヤブキ録音工房では、この手動の機械を丁寧に手入れしています。それは、手動でなければ修理できないテープなどがあるからです。
つい先ごろも、保存状態のよくないテープの修理を依頼され、この機械を使って見事にしあげました。今回は矢吹社長が、特別にその機械操作まで披露してくれました。(下欄写真)